伝統と革新。インテリアの未来をデザインし続ける「Cassina」
扉絵:SORIANA sofa, designed by Arfa & Tobia Scarpa/Photo: Valentina Sommariva

“伝統と革新の融合” 未来を見据えるブランドの原点
——Cassinaの創業について教えていただけますか。
南野浄香さん(以下、南野):その歴史は古く、元々カッシーナ家は17世紀から教会に設置する説教台や木製チェアを製造する家具職人でした。その後、1927年にイタリア・ミラノ近郊にあるメダという街で会社として創業しました。
当時は職人自らがデザインし、手仕事で家具を作るのが主流でした。そんな中Cassinaは外部のデザイナーや建築家にデザインを依頼するスタイルをいち早く取り入れ、洗練された家具づくりの先駆けとなったのです。

南野:そこから時を経て、1950年代にジオ・ポンティと協業して豪華客船の内装デザインを手がけたことをきっかけに、これまでの手工業生産から工業化へと舵を切り、業界に新たな道筋を示します。
創業当初から “伝統と革新” をブランド理念に掲げており、職人技と最新のテクノロジーを掛け合わせて、高品質で革新的なデザインを世に生み出していくのがCassinaの強みであり、世界的なブランドへと成長した要因でもあります。

南野:また1965年にル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンによる一連の家具シリーズの復刻販売を開始。1973年にはそれらを含む、モダンデザイン史を代表する建築家・デザイナーたちの名作家具を正式に復刻した「iMaestri Collection(イ・マエストリ・コレクション)」の販売を開始します。これが大きな成功を納め、世界的ブランドとしての地位を確立していきました。

——どのような経緯でCassinaは日本へと持ち込まれたのでしょうか。
南野:ブランドの日本進出に大きく関わったのが、カッシーナ・イクスシーの創業者である武藤 重遠(しげとお)の存在です。武藤は日本でまだ “モダンデザイン” という概念が浸透していなかった1970年代に、『日本の暮らしに世界のデザイン文化を根づかせたい』という想いから、家具の輸入業を始めました。
ある日、知人から「1 Fauteuil dossier basculantLC2(フォートゥイユ・ドシエ・バスキュラン)」というチェアを贈られたのが、武藤とCassinaの出会いでした。そのデザインと高い完成度に惚れ込み、Cassinaの社長が来日すると聞きつけるとアポイントもとらずホテルで待ち続け、日本での取扱いを直談判したそうです。その熱意が通じ、今日までの取引へとつながっています。
その後も武藤は世界的デザイナーや建築家たちとの交流を重ねながら、モダンデザインを日本の住まいに根付かせるための挑戦を続けていきました。

創業から受け継がれるブランドの思想
——他のインテリアブランドにはない特徴はどのようなところでしょうか。
南野:「The Cassina Perspective(ザ カッシーナ パースペクティブ)」という哲学を掲げ、デザイナーや時代、スタイルの異なるさまざまなプロダクトをミックスして空間をコーディネートできる点です。ブランドが展開するプロダクトには近代巨匠の名作を集めた「iMaestri Collection」と、現代のデザイナーたちによる「Contemporary Collection」の2軸があり、それらを組み合わせたスタイルは唯一無二と言えます。

南野:また家具だけではなく、照明やテキスタイル、アート、カトラリーなどの雑貨まで取り揃え、細部までCassinaブランドでコーディネートできる点も強みです。近年さまざまなプロダクトを扱う家具ブランドは増えていますが、テクニカルな側面が強い照明までオリジナルで扱っているところは少ないのではないでしょうか。

(右)パトリシア・ウルキオラがデザインを手掛けたフラワーベース「SESTIERE(セスティエーレ)」。日常に情緒を咲かせてくれる。(Photo: Paola Pansini)
時代を超えて、選ばれ続ける名作
——数あるプロダクトの中で、特に人気を集めているものを教えてください。
南野:発売以来変わらず「MARALUNGA(マラルンガ)」ソファは人気があります。『マラルンガに座ってみたくて来ました』とおっしゃる方も多く、来店目的そのものになるプロダクトです。

——なぜこれほどの人気を博しているのでしょうか。
南野:一番は座り心地ですね。過去には『どこかで座った時の心地よさが忘れられない』と探しに来られたお客様もいらっしゃいました。木枠に綿を詰めたソファが主流だった時代に初めてモールドウレタンを採用した、Cassinaの革新性と技術力を象徴するプロダクトです。
また輸入家具にしてはコンパクトなサイズ感も日本の住宅に合っています。世界で唯一ライセンスを取得し、国内で生産を行っているので、短納期でお届けできる点も支持されている要因と言えますね。
次ページ▶ 業界のトップランナーが示す、未来を見据えたものづくり
アーカイブから現代へ、名作が新たな輝きを纏う
——近年、人気が高まっているプロダクトも教えていただけますか。
南野:Cassinaではシャルロット・ペリアン以来の女性デザイナーで、2015年からアートディレクターとして就任したパトリシア・ウルキオラのプロダクトは非常に人気があります。また、アートディレクターとして巨匠たちの名作を彼女らしい大胆な色・素材使いで見せることで、現代の暮らしに馴染むアイテムへと昇華させ、幅広いコーディネートの提案を可能にしています。
中でも人気があるのは「SENGU(セングウ)」シリーズのソファです。角度のついたアングルシートを組み合わせることで、間取りや使い方に合わせて自由にレイアウトを変更できる点が人気を集めています。

南野:「SENGU」シリーズのダイニングテーブルも人気ですね。ポーセリン(磁器)の天板は、焼き物ならではの一点一点異なる表情や手仕事感を味わえます。また楕円形のフォルムは、丸や四角では生まれない自由な配置や空間づくりを可能にしてくれます。暮らしに個性と楽しさをもたらし、『自分らしい個性を表現したい』という現代のお客様のニーズにマッチしているのではないでしょうか。

環境負荷に配慮した素材と構造
——サステナブルなプロダクトの開発にも取り組まれていますね。
南野:Cassinaではデザインの革新性だけではなく、“新たなプロダクトを生み出すこと自体が環境や社会にとってどのような意味を持つのか” という視点を大切にしてきました。2020年にはミラノ工科大学と協働で「Cassina LAB(カッシーナ・ラボ)」を立ち上げ、環境負荷の低減を目指したマテリアルの研究開発に継続的に取り組み、サステナブルなものづくりを推進しています。

南野:ここ数年の新作製品では、回収したペットボトルなどを再利用してつくられた再生PET繊維の綿を中材に使用しており、「SENGU」ソファにも採用されています。製品をつくる段階から、製品寿命を終えたあとに素材ごとに分解できる構造を考え、マテリアルリサイクルへとつなげられるものづくりを行っているのです。
歴史と革新が交差する、Cassinaの未来像
——来る2027年に創業100周年を迎えるCassinaですが、今後どのような道を歩んでいくと思われますか。
南野:常に時代の先を見据えてモノづくりをしているブランドですので、毎年新しい何かを見せてくれるという期待感があります。テクノロジーを取り入れれば新しいかというとそうではなく、そこに手仕事感が加わらないと、家というプライベートな空間で住まい手に愛されるプロダクトにはならないと思うんです。そのバランスを保ちながら、皆さんが見たことのない展開を見せてくれるのではないかと思っています。

創業時から脈々と受け継がれるブランド哲学を礎に、未来へと進化を重ねる「Cassina」。その家具を日常に迎え入れることは、時代を超えて磨き抜かれてきた価値とともに、豊かな時間を生きることにほかなりません。
次回の後編ではCassinaをはじめ、選び抜かれた多彩なブランドの世界観を一堂に体感できる「カッシーナ・イ
